Pick Up

道を外す者=生き方を自分で選ぶ者

常識にとらわれない、ビールづくり。Derailleur Brew Works 〈ディレイラ ブリュー ワークス〉は朝から酒を楽しむ街〝ニシナリ〟にこだわり、ライオットエールのレシピを再現するために設立されたクラフトビール工場と企画運営チームの集合体です。フランス語で『道を外す者=生き方を自分で選ぶ者』を意味するディレイラを冠し、常識や一本道に囚われない発想やマインドでビールを作り続けていくことを信念としています。

LINEUP

  • NISHINARI RIOT ALE

    1990年、ポートランドからニシナリにやってきた女子高生エミリー・スコット。
    ニシナリでは暴動の夜が続き、彼女もまた傍観者だった。
    エミリーとニシナリで出会ったヤマトとオオサキが3人ではじめたことは、
    憎しみ合い、戦うことではなく、酌み交わし、笑い会える酒、彼女の故郷のビールを作り、
    振る舞い続けることだった。当時の青年たちが作ったであろうレシピをアメリカンペールエールで再現。
    笑い会える酒、西成ライオットエール

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):5%
    原材料:麦芽、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • けものみち

    3歳になる娘、サラを連れてポートランドに戻ったエミリー。
    サラが原因不明の病気になり、身寄りもなくなったエミリーはただただ孤独と絶望に涙が止まらない日々を過ごしていた。
    行き先のわからない乗り物に乗ってみないか?
    モグリの医者ならサラの病気を治せるかもしれない。僅かな望みを託し、彼に合うときにそう聞かれたのだった。
    膨大な治療費を捻出するため、サラと別れ、世界を旅する自転車の賞金稼ぎへエミリーは身を転じることに。
    いつか、サラに、甘い穏やかで、でも揺さぶるような酔わせ方をする恋、
    パパもママもそんな恋をして、あなたが生まれたのだと。
    そんなレディ・キラーなビールを、私が作ったビールを、彼女に伝えられれば、それでいい。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7%
    原材料:麦芽、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • 我はカモメ 恋に鳴く

    おじいちゃんは、私を海に連れてきては、ビールを飲みながらいつもする話。
    穏やかに生きなきゃいけないよって。
    レモンを絞って、砂糖をひとつまみ入れて、美味しそうに飲みながら、飽きるほど聞かされた話。
    私には好きだったひとがいた。卒業したらアメリカに行くんだって。音楽の修行に出るんだって。
    行かないでって言えばよかったのかな。一緒に私も行くって言えばよかったのかな。
    おじいちゃんは、カモメに餌をやりながら、ひとりで飛んでいけばいいんだよな、って呟いてた。
    わたしもそうやって飛んでいけばよかったのかな。
    おとなになったら、わかるのかな。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):5.2%
    原材料:麦芽、ホップ、アイリッシュモス

    ¥770(税込)

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  • DELTA PARK FIGHT CLUB

    23時27分。待合室のランプが点灯する。儀式代わりにビールを飲み干し、
    アーロンは闘技場へ歩きはじめる。
    金網に囲まれた、通称鳥籠と呼ばれる、コンクリートの床の上で、アーロンはいつも考える。
    違う場所に違う場所で目を覚ましたら、俺は違う人間になれるだろうか?
    何でもできる自由が手に入るのは、すべてを失ってからだ。
    俺は仕事を捨て、俺に愛をくれた女ハンナを捨て、ニシナリにある最大級の公立公園・デルタパークにやってきた。
    鎮座する賭博闘技場、デルタパーク・ファイトクラブで俺は生きる実感を感じ続ける。
    ファイトクラブへようこそ。鳥籠の中で、ゴングが鳴った。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7.3%
    原材料:麦芽、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • 梅海

    リングの上で、太陽はふたつもいらないだろう。
    そう言われたのは、ボストンバッグ一つ引っさげて、入団させてくれと頼みにいった16歳の春のことだった。
    俺を育ててくれたグランマが好きだった梅の花が、季節外れの雪の中、ぽつんと咲いていたのを 俺はずっと覚えている。
    梅の実を齧って、涙をこらえるんだと。グランマの口癖だった。
    俺は悪役としてリングの上で役を与えられ、グランマにはほんとのことを言えないまま、
    一度も俺のレスリングを見せることはできなかった。
    太陽にはなれない、その光を受けて存在し続ける月でしかない俺だが、
    きっとグランマが、いつも、どこかで見ているような気がするんだ。
    俺は、梅の実を、そして口に入れる。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):4.7%
    原材料:麦芽、ホップ、梅、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • 新世界ニューロマンサー

    放電を続けるメガストラクチャー2-10郭(ツーテンカク)。
    南海電磁鐵道が何層にも立体交差し、人造忽布(レプリカントホップ)に溢れた街、シン・世界(SIN CiTY)。
    この街を訪れたエミリーの共感覚に、
    没入(ジャックイン)するのは操作卓(コンソール)越しの少女「あるか子」だった。
    天然忽布(ノンレプリカントホップ)を巡り、電脳幻想が幕を開けた。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7%
    原材料:麦芽、ホップ、黄桃、バナナ、乳糖、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • NIGHT RIDER ROUTE 26

    アスファルトに電磁輪(タイヤ)を切りつけながら、暗闇を走り抜けていく。
    幻肢痛。14歳で失った右腕と右脚。
    17歳で失った初めての恋とピアノ、そしてカネダ。
    フリアールが住んでいた南港(サザンポート)地区。唯一の公会堂があり、かつて父が作っていたビール。
    恋とピアノと、カネダを失ったフリアールは、ブレーキのいらない、スピードが上がり続ける日常を選ぶことにした。
    わたし一人では、解けない、愛のパズル、執着心、喪失感、希望、未来、嫉妬、後悔。
    全てを抱いて走り続ける。この街は人造忽布に溢れ出してから、何かがおかしい。違和感。
    先には堕落だけしかないやさしさ。
    この街のやさしさに甘えていたくはない。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):4.5%
    原材料:麦芽、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • 闖入者たちのピアノレッスン

    2020年10月5日、『シン・世界』の2‐10郭(ツーテンカク・タワー)で放電爆発が起きた。
    ピアノが好きだった少女、フリアールは爆発に巻き込まれ、左腕と、右足を失った。
    そしてわずかばかりの自尊心と、笑顔とともに。
    海沿いの家に、一人で住んでいたフリアールの家に、ある嵐の日、やってきた隻腕の男カネダ。
    フリアールの父が作っていたというビールを報酬に、カネダは彼女にピアノを教えていく。
    毎週水曜日、午前2時の、闖入者による、少女へのピアノレッスン。
    粗野でも素朴でもいい、ただ、残された日々を、ただ、丁寧に、人生にメロディを鳴らすための、
    ピアノレッスンは、今夜もはじまる。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):3%
    原材料:麦芽、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • リバーサイドホテル南海(ナンハイ)

    薬死丸響子。16歳になったと、育ての親、ホフピンスキ曰くだ。
    本当の年齢は、彼女自身も知らない。
    この街は、彼女みたいな掃除屋(スイーパ)を必要としている。
    狙撃の腕は確からしく、不思議なのは、薬莢に大量の勿布を詰めること。
    狙撃現場は硝煙の代わりに勿布を熱した香りが漂い、セゾンの入った、赤いルージュがついたままのグラスを残す、との噂だ。
    リバーサイドホテル南海(ナンハイ)のバーカウンターで、XYZのカクテルを頼んでみるといい。それが依頼のサイン。
    心が震えば、どんな依頼も受ける。
    例え依頼が、育ての親ホフピンスキの殺害、であっても。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):4%
    原材料:麦芽、あわ、きび、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • FAT BOYZ SLIM LEAGUE

    2013年、2月。南港(サザンポート)沖から西に400キロ地点、南海(ナンハイ)。
    南海地域舞洲諸島沖の孤島、夢洲(ドリーム・アイランド)にある核兵器廃棄所。
    政府公安特殊部隊FATBOYSが蜂起し、夢洲を占拠した。
    彼らが政府に突きつけた要求は天然勿布300トンだ。
    要求が48時間以内に受け入れられない場合、彼らは2‐10郭(ツーテンカク・タワー)で放電爆発を起こすと言っている。
    ホフピンスキ、君に与えたれた任務は1つ。彼らの放電爆発能力の有無を調査し、事実ならそれを阻止することだ。
    島に到着次第、最新鋭の弐足歩行型装置を用意する。
    だが我々が支援できるのはそこまでだ。
    潜入任務名:FATBOYS SLIM LEAGUE
    ホフピンスキ。健闘を祈る。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):4%
    原材料:麦芽、そばの実、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • SUPERMAKET TAMADE FANTASIA

    何年も忘れていたのに。
    マーケットに流れていたBGMは非常警報のベルに変わる。
    怒号と恐怖の声が飛び交う中、何かの拍子に急に思い出す。
    あの日見た夢が今でもマナミの中で燻っているからだ。
    小さい頃は神様がいて、愛を捧げてくれるものだと思っていた。
    神様でなくても、誰かが。
    でも、そんな神様も、誰かも、マナミの退屈な日々に愛を捧げ、酔わせてはくれなかった。
    今日、この日、わざわざ寂れたマーケットにあらわれた強盗に、とんでもないものを盗まれるまでは。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7%
    原材料:麦芽、梅、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • 闇のパープルキャッツアイ

    ずっと、当たり前の日常が続くもんだと思っていた。
    昨日のお互いが罵りあう喧嘩の声も。
    今日のごめんねって、ベッドで寝ているあなたのそばでささやく声も。
    夢も、見ている景色も、好きなお酒も。
    ちょっとずつ違っていたわたしとあなただけど。
    それがすべて、星屑のあいだを揺れながら、夜空をだた、さまようだけのハーモニーなんだって。
    無邪気に信じていた。
    今夜のお別れにも、わたしとあなたの新しい門出にも、このビールを。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7%
    原材料:麦芽、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • ハギノチャヤアウトレイジ

    諌言、耳が痛い。アヤが一喝する。
    エミリー、お前はお前の道をいくがよい。それも勿布に翻弄された生き方だ。
    だが私は私のこの血で塗られた道を行く。
    この炎は怒りの炎では無い。見よ、天然勿布に引き寄せられた蟲の群れが争い、この街ハギノチャヤを包み、
    燃ゆる炎に飛び入る様を。この蟲の群れが去ってはじめて気がつくのだ。
    私達はずっと歌っていたのだ。それも子守唄(レクイエム)を!
    この街を、そして天然勿布を守る者たちの謎が少し解けたようだ。
    猛々しい怒りを燃やしつつ、侮蔑と憎悪ではなく、悲しむということなど私にはできぬ!
    そうだろう?そう、彼女は従えていた四頭黒妖犬(ヘルハウンズ)の顎を撫でながら、街を見下ろし、
    仮面の下で口角をわずかばかり上げるのであった。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7%
    原材料:麦芽、ホップ、みかん、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • BLACKRAIN D.D TOWN

    「母さん、ぼくのあの忽布どうしたでせうね?
    ええ、夏、iRean10-9(旧ハギノチャヤ地区)からDTB:re(ドゥトンボリイ再開発地区)へいくみちで、
    渓谷へ落としたあの天然忽布ですよ。」
    忽布に翻弄された者達の深い哀しみと怒りが、激しく心に音を立てる。
    DTB:reの夜に降りしきる冷たい雨のように・・・

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):5%
    原材料:麦芽、ハチミツ、乳糖、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • クリムゾンガールインザヘブン

    「あなたの忽布をみています。あなたのファンより―」
    マダムムーンシャドウには、手に取るようにわかる。
    千の忽布仮面を持っていると彼女自身が認めた少女アヤ。
    アヤは忽布のようにもろくこわれやすい仮面を被って演技している。
    この忽布の仮面を被り続け、女優となる。
    あなたがきっと観ている、それだけでがんばれそうです、赤紫のバラのひと。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):5%
    原材料:麦芽、ホップ、アイリッシュモス

    ¥880(税込)

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  • Miami Vice24

    舞洲諸島上級階層(マイシマ・アイランド・ミリオネア=マイアミ)の象徴サ、
    俺は特捜刑事(ヴァイス)、名前は「G・T王(ワン)」。
    相棒「Danny・馬(マー)」と車走らせるのサ イン ジ エア トゥナイト。
    女は海サ、好きな男の腕の中でも違う男の夢をみるなら、腕を刀で刻んでシまうヨ。
    HaHa!ユー・ビロング・トゥ・ザ・トビタシティ・・・唉呀!

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7%
    麦芽、ソイプロテイン、ホップ、カラギナン

    ¥880(税込)

  • 月影は電気山羊の夢を見たか

    マダム・ムーン・シャドウが上映権を有す伝説の戯曲
    『クリムゾンガール・イン・ザ・ヘブン』。
    鶴見橋芸能事務所の社長令息、サイオンジ・マスミは上映権取得を諦めきれず、
    マダム・ムーン・シャドウの電撃記者会見に足を運ぶ。
    会場の照明が全て落ち、闇の中にマダムの声だけが響く。
    電気山羊(Electilic Goat)の夢の続きは、、
    蠢く汚染と野望から、この土地ニシナリを取り戻すこと。
    殺戮機械兵集団(キリングマシーン)『劇団月影(Moon Shadow’s)』の結成が、
    マダム・ムーン・シャドウことサキ・タニグチにより、高らかに宣言されたのであった。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7%
    原材料:麦芽、ホップ、蝶豆花茶、カラギナン

    ¥880(税込)

  • ニューワールズ・エンド・スーパーノヴァ

    エミリーさんが向かった2‐10郭(ツーテンカク・タワー)が燃えはじめて、
    足下の『シン・世界』は、まばゆい光を放っていた。
    エミリーさんの夢が、溶けてゆく。
    僕も《歩日ARCA(アルカ・アルカ)》をあとにする。
    ドゥルスタンタンスパンパン
    電磁ピストの起動音が遠くで聞こえる。
    エミリーさんのマシンだ。
    僕はジンジャーエールを飲み干して、《歩日ARCA(アルカ・アルカ)》をあとにする。
    口ずさむのは1.2.3でバックビート。
    どこまでも、ゆける、
    どこまでも、ゆける。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):5.8%
    原材料:麦芽、ジンジャーシロップ、ブラッドオレンジ、
    ホップ、カラギナン

    ¥880(税込)

  • 雪解けキャットファイト

    AREA2470を中心とした四大大陸を牛耳る贅四衛府(ゼイシイエフ)。
    その組織の解体を目論みテロルを実行した、囚人T-2014・キョウスケが脱獄した。
    トビタsin/cityの高級料亭(レストラント)に潜伏との情報を受け、
    身柄拘束の任務に向ったのは、新生Fatboyzの新人「エリヨ・波寝(ナミネ)」
    「雪解けするなら、俺の部下と競技(レース)をするといい。ビール1本を賭ける価値はあるゼ」
    エリヨは投降する彼から奇妙な提案を受けるのであった。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):7.3%
    原材料:麦芽、黒糖蜜、ホップ、カラギナン

    ¥880(税込)

  • ESTArWARS

    A long time ago in a Nishinary far, far away・・・
    凶悪な贅四衛府(ゼイシイエフ)帝国の支配が続く中、エスタ・亜頼耶(アラヤ)姫率いる反乱軍は、
    帝国に対し初めて勝利を収めた。
    反乱軍の諜報部隊は帝国軍が建造を進める究極兵器の設計図を奪取する。
    それは「デブ・スター」と呼ばれる麦芽をも粉々にする能力を持つ麦酒要塞基地だった。
    帝国軍に追われながらエスタ姫は設計図を手にニシナリへと急いだ。
    銀河に忽布を取り戻すために・・・
    May the“HOP”be with you.

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):4.5%
    原材料:麦芽、ホップ、カラギナン

    ¥880(税込)

  • マナミ・サマー・ヌード

    マナミは、はしゃぎすぎてる夏のこどものような、
    小麦色の素肌を顕にしたまま誰かが忘れていった
    ー砂浜のような小麦で作ったビール、って昔店長が言ってたよなー
    ボトルを手に取り、胸に惜しみなくかける。
    ねえ、今キスすると、きっとビールの味がするよ。
    いつかの誰かの感触を、マナミは思い出しながら
    そのすべてが通り過ぎるまで
    そんなことを、彼に話しかけてしまうのだった。
    掴んだ手を離してはくれない、恋を奪った泥棒に。

    内容量(ml):330mlAlc.含有量(%):5%
    原材料:麦芽、ホップ、カラギナン

    ¥880(税込)

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1990年、内気なポートランドの女子高生、エミリー・スコットは、
30リットルのリュックサック一つを背負い、大阪のニシナリという町にやってきた。
スクールの人間関係に悩み、全ての関わりを避けるように不登校を続けていた彼女は、
若き頃旅人だった父の勧めた、人情の街『ニシナリ』を選んだ。
自分の何 かを変えるために、自分が誰かに影響を受ける感受性があることを、
そして誰かに影響を与えることのできる存在であることを確かめるために。
彼女は日常のように起こるRiot(暴動)の夜を傍観者のように眺め、
翌日の朝、投げつけられ、散乱したビール瓶を一人で拾い集め、そこに花を一輪差し、道路の隅に並べていった。
毎日、毎日。
1ヶ月を過ぎた頃、ヤマトとオオサキという2人の青年は、花を差し続ける彼女をみて、何をしているの?問いかける。
もう、争いを見るのは嫌だから、せめて武器ではなく、花を育てる器にもなるんだ、
ってところを知ってもらえたらいいなあって思って。
そう答えるエミリーに、ヤマトとオオサキは笑いながら続けた。
俺たち、酒を作ってるんだ。
みんながその酒を酌み交わしながら、仲良く話し合えるそんな酒を。
憎しみ合うんじゃなくて、戦いあうんじゃなくて、ただ向かい合って笑い合えるそんな酒を。
エミリーの故郷の酒、ビールなんだろ、教えてくれないか?一緒に作らないか、そんな酒を。
エミリーがニシナリを離れるまでの3ヶ月、試行錯誤でレシピを作り、
ヤマトとオオサキは周りのみんなにそのビールを振る舞い続けたという。
いつのまにか、ニシナリはRiot(暴動)の起こらない街へと変貌をとげた。
今、そのビールを、当時の青年たちが、ヤマトとオオサキたちが、作ったであろう、
飲み交わしたであろうレシピをペールエールで再現。
笑い合える酒。西成ライオットエール。

NISHINARI RIOT ALE

CLOSE

“行き先のわからない乗り物に乗ってみないか”
3歳になる娘、サラを連れて、大阪・ニシナリから故郷のオレゴン州、
ポートランドに戻ってきたエミリー・スコット。5年ぶりの帰郷であった。
ニシナリでは、気のいい仲間たちといくつものビールを作り、
いくつもの小競り合いが酒盛りへと換わり、そして、いくつもの笑い声で夜が溢れた。
いくつかの、恋もした。
恋は甘い穏やかなテイストの姿をして現れて、
苦い思い出もいっぱい残してきたけど、刺激的な毎日であり、
異国の地を生きる上でのスパイスだった。
そう、今は思う。
まるでハイアルコールをフルーティな甘さで隠した、レディ・キラー・カクテルのようね。
エミリーは娘のサラに微笑みかけながら、そう呟いた。
この故郷(まち)に帰ってくるつもりはなかった。
サラの異変に気づいたのは、去年の彼女の2歳のバースデイ・パーティのときだった。
咳がとまらない。突発する痙攣。微熱が1ヶ月以上続いていた。
手足の力が抜け、左目の視力が極端に落ちてきた。
ドクターも原因不明だという。風邪薬の処方や点滴はするが
サラの状態はよくならない。
何人ものドクターの診断の結果は、日本では原因もわからず、
治療の施しようもない、というものだった。
このままだともって半年。残念ですが。
そう続けるドクターの言葉がエミリーの頭にはもう入ってこなかった。

出口の見えない絶望と不安。エミリーにとって、ドクターのその言葉、それは闇だった。
迷い込んだぬかるみの森、サラを連れて帰る道は、
泥に足を絡め取られ、まっすぐ歩けている気がしなかった。
空調は効いた部屋なのに、じとりじとり汗が止まらない。拭う気にもならない。
ただ、鼻をつくような匂いがした気がする。
涙が止まらなかった。サラを抱きながら、涙が止まらなかった。

1週間ほどたった頃、エミリーの自宅に一本の電話が掛かってきた。
わたしです。わかりますか。先日診断の結果を伝えた大学病院の若い医師だった。
ええ、覚えているわ。エミリーがやっとの思いで声を出す。
オレゴンに、“モグリの医者”がいる。医師免許は無いし、法外な報酬を要求するが腕は確かだ。
彼なら、サラちゃんを治すことができるかもしれない。僕の大学時代の友人だ。
電話口の向こうで、彼は一息ついたあと、力強くこう言った。
まるでエミリーの意思を確かめたいかのように。
『そんな、行き先のわからない乗り物に乗ってみないか』
エミリーは力強く、ええ、もちろんよ。と頷く。
僕の、医局の立場からでは、君にこれを伝えるのが精一杯なんです。すみません。
言うや否や、電話は切れた。
電話口に、ありがとう、そう呟き、エミリーは故郷へ帰る準備を始めた。

“モグリの医者”が要求したのは、成功報酬として治療費150万ドルだった。
あんたにそれが払えるのか?そう問いかける“モグリの医者”
払ってみせるわ。何年、何十年かかってでも。そう答えるエミリー。
迷うことはなかった。戻る先には見慣れた絶望のみち。進む先にはまだ見ぬ苦難のみち。
どちらもおなじ、未開のけものみちであるのなら、
彼女が選ぶのは、ただ、サラの未来へ続くみちだった。

エミリーは治療費を稼ぐために、
自転車レースの賞金稼ぎ『バウンティハンター』になることを決め、
3歳になったばかりの娘を、治療費が完済できるまで、
その“モグリの医者”に預けることにした。
はなればなれになることに、辛さはあっても迷いはなかった。

いつか、サラがいくつかの恋をする年齢になったときに、伝えられたら、それでいい。
恋はいつだって、甘い穏やかなテイストをして現れて、揺さぶるような酔わせ方と苦い思い出を残すもの。
でも、それが、日々を生きる上での、大事なスパイスなんだってことを。
あなたのパパも、ママも、そんな恋をして、あなたが生まれたんだってことを。
わたしが作った、レディ・キラーなビールを、あなたと一緒に飲みながら、
伝えられることができるのならば、それでいい。

CLOSE

わたしは、生まれつき心臓が弱いらしい。
ほんとうかどうかはわからない。

パパは、わたしと同じ心臓の病気で、わたしが生まれてすぐに死んだんだって。
おじいちゃんが、わたしを海に連れてきては、ビールを飲みながらいつもその話をする。
もう飽きちゃうくらいに、その話を聞かされて。

最後にしかめ面しておじいちゃんは、だからナオコは穏やかに生きなきゃいけないよ、そう言って残りのビールを飲み干すの。
いまではおじいちゃんがしかめ面をするタイミングが手に取るようにわかるようになってしまった。それぐらいずっと言われたからなのか、
穏やかにわたしは生きるべきなんだって、当たり前のように今は思ってる。

今私は17歳だから、きっと15年ぐらいはおじいちゃんにそう教えられてきたんだ。それだけ多くの瓶の数と。何百本、いや何千本だよね。
想像すると、ちょっとおもしろい。

負担をかけない、穏やかな生き方。
きっとおじいちゃんは、パパを失ったときに、もう懲り懲りだったんだと思う。ただ、生きていてさえくれたらいいのに。きっとそう思ったんだと、私は思う。

だからわたしは。
穏やかにわたしは生きるべきなんだって、
当たり前のように今は思ってる。

わたしには好きだった人がいた。
同級生で、同じクラスで、たまたま席が隣だっただけで、最初はただそれだけ。
卒業したら、アメリカに行くんだって。音楽の修行に出るんだって。

行かないでって言えばよかったのかな。
一緒にわたしも行くって言えばよかったのかな。
でもどっちも穏やかな生き方じゃない。
そう思って言わなかった。

おじいちゃんが悲しむ選択なんじゃないかって。
それは私の取るべき選択じゃないって。
そう言い聞かせた。

もうあきらめよう。あの人のこと。
連絡もしない。
向こうで好きな人ができたとしても、それを聞かされたとしても。
羨む資格なんてわたしにはない。

おじいちゃんは海に来たら鼻歌混じりに、餌をあげながらかもめに話しかけてた。
かもめは、あたりまえだけどかもめなんだよ、
きらびやかな他の鳥になんかなれないし、
ならないんだよ。ひとりで飛んでいけばいいんだ。
誰かの望みにあわせて、素直な素振りなんかするより、
ひとりで空を飛んでいけばいいんだよな。

鼻歌交じりにビールを飲むときは、おじいちゃんは、ビールにレモンを絞って、砂糖をひとつまみ入れていた。わたしに買ってくれたはずのレモネードをそのまま入れるときもあった。
フランスで仕事をしているときに教えてもらった飲み方なんだ、っていつも言っていたな。
おじいちゃんから餌をもらい終わったら、おじいちゃんの独り言に飽きたのか、
かもめがキラキラと照り返す海面を、ただ、ひとりで飛んでいったのをいつも思い出す。

わたしもそうやって飛んでいけばよかったのかな。
かもめは、かもめか。
わたしはそんなに強くはなれないのかな。
これからおとなになったらなれるのかな。
うみねこだったらなれるのかな。
大きな声でも鳴けないもんな。わたし。

あの人が離れるってわかってても、泣けないもんな。
おとなになったら、泣けるのかな。
おじいちゃんが美味しそうに飲んでた、ビールの味もわかるのかな。
おとなになったら、わかるのかな。

おとなになったら。

CLOSE

試合開始は23時30分。
3分前には待合室のランプが点灯する仕組みになっている。
点灯するランプをぼんやりと眺めながら、一本の決まったビールを飲み干すのが、
いつのまにか俺の儀式になっていた。
俺の国のスタイルのビールだ。ニシナリ製だが、わるくない味だ。

アーロン、闘技場へ速やかに入場してください。
合成された機械音声が待合室に響く。
頭を二度三度揺らし、アルコールが脳内に満遍なく染み渡るのを確認し、
俺は鳥籠-俺はそう呼んでいるが、闘技場というのが正式名称らしい。
だが、金網に囲まれたコンクリートの床のスペースで、
小鳥のように囀るのだから鳥籠がふさわしい名称だとずっと思っている-
の方へ歩いていく。一度だけ、両の拳を合わせて小さい音を鳴らし、
その反動で左の胸を右の拳で小突く。

俺の名はアーロン・ヴァン・ダイク。
ベルギーで平凡だが何一つ不自由のない会社員として、生活を送っていた。
仕立てのいいスーツ。3500ccの車。何も考えずとも増えていく預金残高。
気のいい同僚たち。どれだけ抱いても飽きることのない女。ハンナ。
惜しみなく俺に愛をくれた女。ハンナ。
俺が同じだけの愛を与えていたかは俺にはわからない。

違う時間に違う場所で目を覚ましたら、俺は違う人間になれるだろうか?
ふとそんな疑問を持ち始めてしまった。
なんでもできる自由が手に入るのは、すべてを失ってからだ。

俺は仕事を捨て、ハンナを捨て、答えを探しに、旅に出た。
何カ国めだろうか、大阪のニシナリという街にたどり着いた。
悪くない味のビールがこの街にはあって、
ただそれだけでなんとなく気に入ってしまった。

ファイトクラブへようこそ。

ニシナリにある最大級の公立公園、デルタパーク。
その真向かいにアジア最大級の賭博闘技場がある。
デルタパーク・ファイトクラブ。
この国では、賭博は非合法らしく、表向きはボクシングの練習場だ。

痛みがなく、犠牲もなければ、何も得られない。
闘いを始めろ。生きていることを証明しろ。
そこで俺は闘うことを選んだ。
痛みは、俺に生きる実感をくれた。

俺は消費の奴隷だった。
だが今はどうだ。
観客たちは、その日の飲み代を稼ぐために、俺になけなしの金を賭ける。
俺は消費される側に立ったんだ。

誰もが、金を使って、必要のないモノを誰かから買っている。
俺は、誰かから、必要とされ、買われていく。
好きでもない彼らから気に入られる必要はない。
だが、そこには実感があった。生きている実感があった。
追い打ちをかけるように、わるくないビールの香りが、その実感の輪郭を太く描こうとする。

ハンナを捨ててまでの価値があったのかは俺にはわからない。
だが、これが俺の人生だ。甘さを捨てきれないのかもしれない。
そしてこれはお前の人生だ。俺たちは、1分ごとに死に近づいている。

心の中で声がする。
鳥籠の中で、ゴングが鳴った。

CLOSE

リングの上で、太陽はふたつもいらないだろう。
そう言 われたのはボストンバッグ一つ引っさげて、入団させてくれと頼みに行った16の春だった。
春なのに、めずらしくこの街にも雪が降っていて、押し退けるように梅の花が一輪だけ咲いていた。
枝を覆い尽くす真っ白な雪の中、ぽつんとピンクの色をしていて。
なぜだかはわからないが、あの花をずっと俺は覚えている。

本当はわかっている。俺のグランマ ‐俺には日本人の祖母がいて、ニシナリという街の話を俺によくしてくれた。
俺を、ずっと育ててくれた人だ‐ がずっと好きだった花なんだ。
物心ついたときには、両親は俺のそばにはすでにいなくて、グランマがずっと俺を育ててくれた。
ケイコって名前だったけど、俺にはグランマって呼べって口を酸っぱくして言っていた。

俺は泣き虫で、ずっと苛められていた。
庇ってくれたのは隣に住んでいる同級生のマツザカだけで。
俺にはマツザカとグランマしか世界がなかった。
泣き止むことの無い俺を見兼ねて、グランマは梅の花の実を赤く漬け込んだものを取り出してきて。
俺とマツザカの口に放り込むんだ。
すごく酸っぱくて、顔を顰めているうちに、涙が止まっていた。
泣きそうなときは、この実を口に入れたらいいのさ。いつか涙も忘れちまうよ。
グランマの口癖だった。

プロレスラーになりたいわけじゃなかった。
マツザカが俺を誘ってくれて、二人で頂点を目指そう。
そしていい車を買って、家も買って。
肉を飽きるまで食ってやろうぜ。
マツザカにも俺にも、豊かさがそれ以外にわからなかった。それが俺たちの世界で。
俺たちの街じゃ、15を過ぎれば、みんな働きに出るのが当たり前だった。

グランマは俺に上の学校に行くことを薦めた。
だけどこれ以上グランマに迷惑をかけたくはなかった。はやく自分だけで生きていきたかった。
俺が寝たあと、梅の花の実を齧りながら、内職をしていたのを知っていた。
きっと泣きそうなぐらい辛かったに違いない。
それぐらいは俺にでもわかった。

グランマを早く安心させたかったから。
毎月手紙を書いた。
少しずつ筋トレの数値が上がったこと。
新人戦でマツザカとタッグを組んで優勝したこと。
地方のドサ回りで人気が出始めたこと。

グランマを早く安心させたかったから。
早くグランマにいい肉を食わせてやりたかったから。
グランマにデカい家をプレゼントしてやりたかったから。
俺の活躍はすべて仕送りに添えた手紙に書いて、伝えた。

グランマは俺の試合を見に来たいといつも言っていた。
あんたの活躍する姿が早く見たいねえ。
だけど俺は試合には一度も呼ばなかった。
16のときに、太陽は2ついらないと言われ。俺は月として、ヒール(悪玉)として
リングの上に立っていたのだ。
俺はベビーフェイス(善玉)になれなかった。
ずっと手紙で嘘をついていた。

手紙の中の俺は、ずっとヒーローだった。子どもたちのスターだった。
俺のラリアットで、俺のキック一つで歓声があがる。
実際の俺は、ブーイングの数だけ金になる。そんな男だったのに。
ずっとそれを言えずにいた。

グランマを呼べないまま、彼女は逝ってしまった。
もう俺のリングの姿を見せることはできなくなってしまった。
肉を飽きるほど、食わせてやることもできなくなってしまった。

葬式が終わったあと、俺は夜の海に、梅の花の花びらを浮かせた。
グランマが部屋で倒れていたとき、花びらを握っていたらしい。
何もかも吸い込んでしまうような紺と黒の境目のような海の色に、ほのかにピンクの色をした、
梅の花びらが、沈むことなく沖の方に流れていった。
紺と黒の境目に、吸い込まれることなく、ずっと、ずっと、花びらは浮いていて。
滲んではひとひら、滲んではひとひら、海に沈んでいった。
すべての花びらが沈んでも、俺の視界はずっと滲んでいて、なにも見えなくなっていた。
見えないままでよかった。すべて沈んだら、グランマが逝ったことを認めてしまいそうで。

俺は今日もリングに立ち続ける。
ブーイングは俺への愛情だ。どうしようもないクズを求めるどうしようもない日常を。
過ごさざるを得ないやつたちのために。俺はリングに立ち続ける。
マツザカが太陽として輝き続け、俺はあいつの光を受けて存在し続ける。
そして、今日もリングから、観客席を一瞥する。
いないはずの、グランマが。
いつも、どこかで見ているような気がするんだ。
俺は梅の実を、口に入れる。

CLOSE

デイブ・ナオコ・ハートランドに捧げる
(1923/6/10~2008/2/26)

そしてわたしは、いまも夢を見ているのだ、
忽布神のおぼろな影が、
わたしの歓びのうたを穿いてゆき、
露に濡れた枝木から溢れる光に照らされてゆくその先を。 ‐‐‐『しあわせな忽布農の歌』  イエイツ

エミリー・スコットは、数十年ぶりのニシナリの人混みを押し分けて、
隣接するエリア『シン・世界』の《チャット》のドアに入り込んだ。

彼女が見上げた2‐10郭(ツーテンカク・タワー)は何時まで経っても
放電を続けたままで。突き刺す空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。 「もし、万が一。万が一だが、天然物の忽布(ノン・レプリカント・ホップ)ってものがあるんだったら」
《スプロール》調の声、《スプロール》調の立体光波(ホログラム)がバーカウンターの向こうから
エミリーに声をかける。
神経接続(コネクト)せず、直接にだ。この時代では珍しい。

カウンターの隣では、禁制品のホルモン誘因(トリガー)の取引を話し合っていた。
エミリーは《スプロール》調の声の持ち主が、差し出したビールに口をつけ、
カウンターに凭れながら、静かに目を閉じる。 「人造忽布大欠乏症になったみたいな、おれの体には、刺激が強すぎるだろうなあ。」
「嗅覚神経接続が、天然物の忽布に驚愕してやがる。電気海月に刺された気分だ」
《スプロール》調の冗談だ。ここ《歩日ARCA(アルカ・アルカ)》は筋金入り国外居住者用のバーで。
だからここで一週間飲み続けても、日本語はふた言と耳にしない。

隣の取引に夢中な男たちの話だから、本当かどうかはわからない。
ただ、神経接続せずダイレクトに嗅覚と味覚を刺激する甘美なビールは、
噂通り、人造忽布(レプリカント・ホップ)全盛のこの時代では貴重、そして違法(イリーガル)な、
天然物の忽布(ノン・レプリカント・ホップ)で作られているのかもしれない。

ほんの数十年前。
わたしが、この街でビールを造っているときには、当たり前だったホップ。
今や法を犯す都市伝説の存在になっていたなんて。
エミリーは軽く目眩を覚える。ビールに含まれるアルコール成分のせいなのか。
時間の流れに寂しさを覚えたせいなのか。彼女自身にも判断(ジャッジメント)がつきかねていた。 「イエローピーチとミルク。あとはノン・レプリカント・ホップ。あんたのケツのようなプリップリのイエローピーチだろう」
カウンターの端でグラスを抱えている少女。操作卓(コンソール)を経由してエミリーの共感覚幻想に直接語りかけてきた。

わざわざご丁寧な解説、感謝するわ。
30年前なら、一夜限りの恋に誘われているのか、勘違いするところね。
共感覚での返事は好きではない。エミリーは口を少し歪め、没入(ジャックイン)する。

少女はフードを被ったまま、表情を悟らせることなく、頷く。
エミリーは、甘美ながらも刺激が強めのビールを飲み干し、
筋金入り国外居住者用のバーから退散することにした。
少し酔ったのか、エミリーは、自分の汗の据えた匂いを嗅ぐ。

バーを出て、2-10郭(ツーテンカク・タワー)を改めて見上げる。
そろそろ、決着をつけないと。
エミリーは自分にそう言い聞かせ、電磁ピストバイクに跨がろうとした。

エミリーの前に、さっきの少女が立っていた。14秒前には誰もいなかったのに。
彼女は少女に語りかける。
特注電脳空間デッキに私の意識を没入(ジャックイン)させたのね。あなた。
だけど、目上の人と話をしたいのなら、顔を見せなさい。
それが礼儀というものよ。

少女は頷き、だがその提案には答えず、矢継ぎ早に呟いた。
「もうこれ以上、大事な人を失いたくないの。自分。」
「あなたには、まだ生きていてほしい」
「このレイルは、死にゆく運命のレイル。あなたには乗ってほしくない。」 「レイルは誰かが敷いたものじゃない。」
「いつだって、自分でレイルを選んできたわ。もし間違ったレイルなら、そこから降りればいいだけよ」
エミリーは静かに微笑んで、最後に一言付け足した。 「今年最後の花火(ファイアクラッカー)を見に来ただけよ。安心なさい。」
ニューイマミヤ駅に、南海電磁鐵道(ナンハイ・レイルウェイ)の電磁蒸気列車が停車したのか。
ブレーキ用の逆噴射蒸気(バックスチーム)がけたたましく、二人の会話を割っていった。

CLOSE

アスファルトに電磁輪(タイヤ)を切りつけながら、暗闇を走り抜けていく。

明日が来ることに怯えていたフリアールは、
このまま何かに衝突してしまうからもしれない。
ブレーキのない、上がり続けるスピードの中で。
陳腐としか言えない恐怖と極度の不安の緊張感に、身を任せていた。

phantom pain

幻肢痛。14歳で失った右腕と右脚。17歳で失った初めての恋とピアノ、そしてカネダ。

フリアールが住んでいた南港(サザンポート)地区。
唯一の公会堂があり、かつて父が作っていたビール。

その横にずっと鎮座していたエルカミーノ。
69年式。父の生まれた年だ。
骨董品にも程がある。ハンドルにはいつもメモが挟まっていて。
父は、そのメモをフリアールにみせることだけを拒んでいた。

いつも助手席には座らせてくれたのに。

恋とピアノと、カネダを失ったフリアールは、ブレーキのいらない、
スピードが上がり続ける日常を選ぶことにした。

カネダが好きだって言っていた古い映画があって。そこに出てくる前時代的な人造人間がいて。
それを模して右腕の義手を作った。
T-800の焼印を入れて。
蒸気稼働装置を動力源にしたのは、もちろんカネダへの尊敬だ。
すこしの愛と。
自分の意思で失う右腕には、不思議と幻肢痛ってなくて。
フリアールの義体で、唯一神経接続の同期指数が100%を叩く部分だ。

父の残していたメモは、普通の父親が思うそんな他愛もないメモ。

フリアール、きみが20歳になったときに、
きみを運転席に座らせて、
僕は、横で、ビールを呑みながら、
きっと今以上に、ママに似て綺麗なレディになったきみを見ていたい。
それが、僕の、パパの夢だ。

普通の父親が思う、そんな他愛もないメモ。

エルカミーノの動力を5年落ちの蒸気装置に入れ替え、吸入量を制限撤廃(リミッターカット)した。
旋回性能と見た目とのトレードオフだ。全くの妥協で、ヒビの入ったゴムタイヤを電磁輪に交換する。

それだけで、ルート26で誰も追いつけない。
たったそれだけ。
あとは陳腐な恐怖に身を任せるだけ。

代理頭脳(ナビゲーション)は、政府推奨のものを入れる決まりがあるらしいのだけど、
少しばかり調整した、ガサツなお手製の相棒に。

乗り込み、ハンドルの横に、グラスをセットする。
父の好きなビールをなみなみと注ぐ。
このビールを溢さないように操作(ドライブ)する。

右脚をエルカミーノ69年式に直接接続(ダイレクトドライブ)。
ハンドルの周りに25個ある情報灯が全て点灯する。
その瞬間だけは、フリアールは、いつも、父と歩いた照り返しの夜景の街、シン・世界を思い出す。

余韻に浸る間もなく代理頭脳の起動が始まり、ステロタイプの電子合成音との挨拶を交わすのが、
彼の機嫌を損ねないための儀式。

「ねえ、エディ」
「ハイ フリアール。トビッキリ ノ ゴキゲン ノ ロック デ ツッパシロウ ゼ」

返事をしないでスピードを上げていく。
エディは自分のお気に入りのロック・ミュージックを流し始める。

phantom pain

フリアールは思う。
わたし一人では、解けない、
愛のパズル、執着心、喪失感、希望、未来、嫉妬、後悔。
全てを抱いて走り続ける。

この街は人造忽布に溢れ出してから、何かがおかしい。違和感。
先には堕落だけしかないやさしさ。
この街のやさしさに甘えていたくはない。

次の交差点(クロスロード)を曲がれば、ルート26に入る。
おそらく忽布集団(ホップヘッズ)と、彼らに操縦された機動警察たちが封鎖を狙っている頃だろう。
「エディ、そのまま突っ切るわ。最適解の侵入角を計算しておいて」
「モチロン デス フリアール 2.8 ビョウ ゴ ニ 56 ド デ シンニュウ ソレガ イチバン ロック デ・・・」

フリアールはエディの口調を真似て重ねつぶやいた。
「ロック デ ホップ」

電子合成音の笑い声が、ルート26上のネオンに消えていった。

CLOSE

白と黒の鍵盤が、規則正しく「88」並ぶ。
フリアールにとって、それは88人の従順な下僕であった。
彼女が88の鍵盤を支配し、時には鞭打ってでも、
88の鍵盤に自分を満足させる音を鳴かせるのだ。
ねじ伏せるための恐怖、技術、そしてリズムを用い、
88人の下僕を圧倒していく。
ピアノを弾くということは、そういうことだったのだ。
フリアールにとっては。

2020年10月5日、『シン・世界』の2‐10郭
(ツーテンカク・タワー)で放電爆発が起きた。
当時政府の人造忽布推奨政策に不満を持つ者たち
『忽布集団(ホップ・ヘッズ』のテロリズムとも言われたこの事故は、
多くの死傷者を出したのみならず、彼らの心に深く消えない傷を残し、
また、見えぬ敵、『忽布集団(ホップ・ヘッズ)』への憎悪だけを生んでいった。

10月5日、フリアールも爆発に巻きこまれ、左腕と、右足を失った。
最愛の父と母も。
ニシナリエリア唯一の海の見える町、南港(サザンポート)。
少しばかりの急坂を越えた灯台のふもとに、うみねこが集まる公会堂があり、
その横に彼女の家があった。

いつも窓から聞こえてくるのは、笑い声と、ねじ伏せられた華やかなピアノの音色。
波の音に混ざり、時折うみねこが合いの手を入れるように鳴いていた。

その日を境に、ピアノの音色も、きっと引き寄せられていた海猫も、
そして彼女の笑顔も、希望も。
鍵盤をねじ伏せていた左腕も、リズムを刻んでいた右脚も。
すべてが消えてしまっていた。

波の音だけは、ずっと変わらず、そこに残っていた。

ある嵐の日だった。
ピアノが鳴らなくなったその家で呼び鈴がけたたましく鳴る。
ぼろ毛布をまとった40過ぎだろうか、
冴えない風貌の男がずぶ濡れで玄関の前に立っていた。
何も言わず、中に入るように手招きするフリアール。
彼が歩くたびに、蒸気が噴き出る音がする。金属が擦れ合う音。
『俺も、あの爆発で、腕を失っちまったよ』

隻腕の男は名をカネダと言った。
白髪交じりの無精ひげを自分でさすりながら、
求めてもないのに自分のことを語り始めた。
爆発があるまでは、調律師をしていたらしい。
アルコールを要求するので、フリアールは、図々しいなあ大人は、
と思いながらも、昔父が手作りしていたビールを倉庫から出して、
彼に投げた。

カネダは、グリゼットか、とつぶやき、
瓶のまま美味しそうに一息で飲んだあと、
『ピアノ、教えてやろうか』

部屋の隅に、埃まみれになった鍵盤をじっと眺めながら、そう言った。

報酬は、このグリゼットを毎度飲ませてくれたらいい。
フリアールにとって、カネダの提案はどうでもよかった。
ただ、父の作ったビールが、グリゼットっていうのか、
もっとそのビールの話を。
聞いてみたかったのだ。父に少しでも近づけるような気がして。

カネダのピアノ・レッスンを受けることにした。

毎週水曜日、真夜中2時にカネダはやってきた。
波が一番落ち着く時間だから、音に邪魔されないからだという。
月明りが鍵盤を照らしてくれる。

フリアールは、最新の筋電蒸気義手と義足を使っていた。
普段の生活には支障はなかったが、
そこには自分の意志と動作に神経伝達遅延(レイテンシー)が発生する。
それでは、圧倒的な恐怖と力で、鍵盤を支配することはできない。
頭に浮かぶリズムも技術も、もう同じようにはできない。
やっぱり、わたしからすべてを奪ったあの爆発が憎い。

泣きながら鍵盤においた手を止めるフリアールに、
カネダは自分の義手をそっと重ねる。
遅延があるなら、すべてをその遅延に合わせたらいい。
自分の義手でしか、鳴らせない音を、リズムを、自分の音として、
認めてあげたらいい。
いま、君に残されたもの全てを、あますことなく認めて、
力を借りていけばいい。
それが君の音で、君の生き方だ。
いま、あるもので、派手でなくていい、
粗野でも素朴でもいい、丁寧に鳴らしていけばいい。

カネダは義手を重ねたまま、
あるもので、丁寧に、素朴に、そう繰り返し、
今日の報酬の瓶をひと飲みし、
そのままフリアールの唇にそっと自分の唇を寄せた。
『まるで、このグリゼットのようだ』

フリアールの指が、月明りの下、影を作りながら、
88人の下僕たちと新たな関係を結びだした。
ピアノを弾くということは、そういうことだったのだ。
フリアールにとっては。

CLOSE

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CLOSE

2013年、2月。
南港(サザンポート)沖から西に400キロ地点に存在するニシナリ唯一の海域、南海(ナンハイ)。
その南海地域に海上要塞として建設された人工島群、舞洲(マイシマ)諸島がある。
地図上には存在せず、政府も公式には認めていないが、原住民(ニシナリーズ)たちには周知の事実だ。
わざわざ、上陸しようと思わない、また厳重な警備もあり、公安特殊部隊の訓練場に使われているのでは、
との噂が、
原住民(ニシナリーズ)の間では蔓延っていた。

単独用自動操縦型潜水艇に乗り込んだ
ホフピンスキの脳内に、微小機械(ナノマシン)を通じてくぐもった拡声器で語りかけてくる。
忌々しくも懐かしい声だ。
多くの者にとってその答えはひとつしかない。

冬のダイビングは好きじゃないな。
岸に上がったあとは冷たいビールで乾杯をするもんだ。
この冬の寒さは似合わないだろう?
ホフピンスキがつぶやくも返答はない。
語りかけは続く。

舞洲諸島沖の孤島、夢洲(ドリーム・アイランド)にある核兵器廃棄所。
政府公安特殊部隊FATBOYSと、
彼らの率いる微小機械(ナノマシン)を注入された次世代型特殊私兵軍隊が突如蜂起し、夢洲を占拠した。
昨日の事だ。

昨日?ホフピンスキが思わず聞き返す。
随分と迅速な対応じゃないか。あんたらにしては。
ホフピンスキの問いかけを聞こえているのか否か、
語りかけは続く。

彼らが政府に突きつけた要求は天然勿布300トンだ。
要求が48時間以内に受け入れられない場合、
彼らは2‐10郭(ツーテンカク・タワー)で放電爆発を起こすと言っている。

それで核兵器廃棄所か?
やつらはそこで放電爆発を起こせる核兵器を作っているのか?
返答はない。
語りかけは続く。

ホフピンスキ、君に与えたれた任務は2つある。
夢洲に秘密裏に存在する核兵器廃棄所に潜入し、
人造忽布の世界的権威である薬師丸博士の安全を確保、救出すること。
そしてもうひとつは、
彼らの放電爆発能力の有無を調査し、
事実ならそれを阻止することだ。

ヤクシマル・・・・
ホフピンスキは二日酔いの頭で観ていた3日前のニュースを思い出した。
南港で学会の後消息が不明になっていたというあの薬師丸博士か!?どうなんだ大佐?
返答はない。
語りかけは続く。

君にはこの潜水艇で廃棄所の近くまで単独で接近してもらう。

で、そこからは?
ようやくホフピンスキの問いかけに、『大佐から』返事があった。
最初の語りかけから2分35秒が経過していた。

泳いでくれたまえ。

語尾に少し笑いを含んだような湿り気のある声で、『大佐』の語りかけは続く。

島に接近後、この潜水艇は破棄してくれたまえ。

政府公安特殊部隊FATBOYS。
かつてホフピンスキ、君が所属し、わたしも指揮を取った事のある特殊部隊だ。

解散させられたんじゃなかったのか?
ホフピンスキが疑問を投げる。

表向きは、だ。『大佐』が返答する。
数々の暴動鎮圧の手法責任を問われ、時の長官、ドナルド・マクガイヤーがFATBOYSを解散させた。
君やわたしの在籍時だ。覚えているだろう。
わたしや君も、その時の責任を取る形で、
退任していたが、
政府はある壮大な計画遂行のため、FATBOYSを存続させていたらしい。

壮大な計画?

大佐が答える。
私にもそれは知らされていない。ただ、大きな目的があるとのことだ。
このニシナリを、人類の未来を輝かせるために
壮大な計画、私にはそこまでしか知らされていない。

夢洲全体が核廃棄敷設となっている。
厳重な警備のはずだ。
無事に上陸したあとは、最新鋭の弐足歩行型装置を用意する。

だが我々が支援できるのはそこまでだ。
ホフピンスキ、いつものように、単独での潜入任務(スニーキング・ミッション)だ。
非公式の極秘任務だ。公式な支援はあてにしないでくれ。

潜入任務名(オペレーション・コードネーム)はFATBOYS SLIM LEAGUE。
ホフピンスキ。健闘を祈る。

CLOSE

『密告者は密告し、強盗は強盗し、殺人者はひと殺し、恋人たちは、恋をする。』

昨日、大学の授業をサボって、映画館で
-その映画館はバイト先、ニシナリにあるなんでも揃うスーパーマーケットの横にある、
マナミが生まれる前の映画を三本上映するような、そんな映画館で-
観た、昔の映画のワンシーンのセリフだった。妙に頭に残ってる。
なんだったっけ、勝手にしちゃえ?どうにでもしやがれ?勝手にしやがって?
なんかそんなタイトルの映画だった。

なんでも揃うってことは、逆にいったら、
なんでも完璧には揃わないってことで。
なんだか品揃えが中途半端なんだ。
マナミは思う。
マナミのバイト先のこのスーパーマーケットは。
エプロンさえしていたら、服装も身だしなみも髪型もまあ自由なところと。
タバコを吸いに行ってる間もバイト代を出してくれるところと
(社員さんもおんなじように休憩を取ってる。ホワイトなんだよきっとこのスーパー。)
あと、マナミの家から歩いてすぐなところがまあまあ気に入ってる。
なので、このバイトを続けてもう6年になる。高校の時からか。

何年も、何年も、心の片隅にすらおいてなくて、忘れかけてたことが。
なにかの拍子に、不意に思い出すことってあるんだな。
なんでそういうことを言うのかって?
だって、今の私のことなんだもん。
マナミは思う。
誰も来ないレジでぼーっと座ってたら、昔のことでも思い出さないと、
全然時間が経ってくれない。
あの秒針の動きが、私の給与残高を高めてくれるバロメーターなのに。
全然進まない。
あ、でも日付変わった。

このスーパーマーケットは、24時間開いているってことと、
なんでも揃うってことがウリらしい。
だけどそれはニシナリ中のコンビニが
もう担っていると思うし、
昔は流行っていたようだけど、
中途半端な品揃えとセンスのなさの前には、
こんな時間にはお客さんは誰も来ない。
酒に酔った旅行者と、同じく酒に酔った冷やかしと。
番人ぶった忽布集団の見回りと。
あとはこの夜の孤独を、
ひとりで持て余しているひとぐらい。
私のような。
マナミは思う。

だけどビールの品揃えはセンスあると思う。そこは店長を褒めてあげたい。
この街は安い酒がよく売れるから、
店長の選んだ品揃えのビールは価格がクソ高くて、
全然客受けは良くない。売る側の身にもなってみたらいいのに。
でも美味いんだよな。世界中のビール、種類がいっぱいあるんだなって。
教えてくれたのは店長だったし、私はそれを受け売りで仕入れと販売もやってる。
店長にやってくれってお願いされたら、なんでもやってしまってる。
ちょっと泣きそうになりながら頼んでくるんだ。あのひと。
かわいいなって思ってしまった。
断れないよなあ。
マナミは思う。

店長に好きって言われたら断れなかったよなあ。
いっぱいキスしてくれて、手も繋いでくれて、
ほんとに愛されてるんだって思っちゃったら、
断れないよなあ。
ベッドの上でも泣きそうな顔を時々する。困らせちゃいたくなる。
だからときどき、意地悪をした。

この前の2‐10郭(ツーテンカク・タワー)の放電爆発で、店長も巻き込まれて死んでしまったらしい。
私の恋も終わったのかな。なんて。
意地悪できなくなったじゃん。
ってちょっと可笑しくなったんだけど、
合同葬儀があって、そこに私も彼女面して顔を出したらいいよね。
マナミは思う。

だけど、店長の遺体のそばで泣いていたのは、
とても綺麗な黒髪の女性と、
男の子と黒髪のきれいなおかっぱの女の子だった。
泣きそうなのはこっちだ。
困らせてるつもりが、
困ってしまっていたのはこっちだったのだ。
ときどき、意地悪をされていたのは、私だったのだ。
マナミは思う。

神様がいて、愛を捧げてくれるんじゃなかったのかよ!

店長が好きな唄のフレーズだった。
全然キーがあってなくて、平たく音痴だったんだけど、
声の心地よいひとだった。
神様でも誰でもいいから、
この退屈な毎日に愛を注いでくれないもんですかねえ。
そうつぶやきながら、マナミは店長の品揃えを守り続け、
一番売れないゴールデンエールのボトルを手に取る。
地味なラベル。生梅が入った金色のビールだ。
みんな梅酒だと思って買っていかない。誰も気づかない。
おいしいのにな。
私のようだな。だれも気づかない。気づいてくれない。案外おいしいのにな。
マナミはボトルを開け、レジに戻り、口をつける。

マーケットに流れていたBGMが、
その時突然非常警報のベルに変わる。
わずかにいた冷やかし半分の客たちの、怒号と恐怖の声が飛び交う中、
マナミはレジカウンターにただただ座っていた。
酔ってしまったからか。
どこかで自暴自棄になってしまったのか。

ふと気づくと、カウンターの前に男が立っていた。20代前半だろうか。
この店で、強盗に入っても奪えるものって何もないよ。
金目のものって大してないし。現金はこれだけ。
マナミはレジを開けて、その日のわずかばかりの売上を男に渡す。
少し心拍があがっているのはわかるけど、怖くはなかった。
その男も、私と同じゴールデンエールを手に持ち、開けていた。

いいセンスしてるよね。あなた。
マナミはそう呟き、カウンター越しにキスをした。

男がキスを受け入れ、そして呟いた。
忽布集団に追われている。この騒ぎの中、逃げ出したいんだ。
手伝ってくれないか。

マナミは彼の手を取り、カウンターの裏に誘導し、
頬を上気させ、返事をする。

『密告者は密告し、強盗は強盗し、殺人者はひと殺し、私は強盗に、恋をする』わ。
『一緒に』なら逃げてあげる。
掴んだ手を、離すつもりはなかった。

CLOSE

甘いメロディが、風に乗れば、
秘密めいた、二人の扉が、どこかで開くはず。

ニシナリ旧ハギノチャヤ地区、iReen10-9(アイリーントック)。
このエリアは、あの放電爆発以来、purple haze(紫色の霧に包まれる夜)
がやってくる。気まぐれで、何度も、何度も。

ユイ・ユカ・ユマのKazama三姉妹は、両親を2‐10郭(ツーテンカク・タワー)の放電爆発で亡くしたあと、
この都会iReen10-9に残された麦酒店『紫苑猫目(パープル・キャッツアイ』を切り盛りしていた。
両親とも、NINJAの末裔だってユマには嘯いていたけど、ユイはそんなことは子供だましの嘘だって気づいていた。
知らないふりをするのは、優しさのつもりだったけど、
告知(カムアウト)の機会を逃すことになるなんて思わなかった。
それだけは、ユイの心残りと少しの誤算。
ユカはだからか、あの爆発のあと、Syu:re/Kane(手裏剣) の刺青を、
鼠径部に入れていた。

気立ての良い三姉妹が切り盛りする『紫苑猫目』は、いつも客で賑わっていて。
毎日昼休みには、ウツミが愚痴を沢山と、代わりに『丸栖(マルス)』と呼ばれている
白葡萄酒のような風味の麦酒を毎度注文(オーダー)でやってきていた。

ウツミはユイの幼馴染で、五年前から恋人だそうだ。
だけどもキスすら許されていないそうで。
恋愛が公平な条件下で行われる契約なのだとしたら、
それは不当な契約で、不履行されても仕方がないと思うのだが、
ウツミはユイに会いに毎日訪れて、ユイはウツミの愚痴をただただ聞いてあげるのだった。
今日もそんな一日で。終わるはずだったのに。

『紫苑猫目』のブラウン管は定時の政府報道を流していて。
伝説の忽布『ヤマトガワの雫』がニシナリに到着したと、ブラウン管の向こう側で説明していた。
九里虎城(グリコサイン)特設会場で展示されることになっていたのだが。
謎の女怪盗集団パープルキャッツが、『今回も』盗難予告を各報道機関、並びに忽布警察にした模様で。
さも興奮した口調で、説明が続いていた。

ウツミはユイと恋愛の契約を締結し始めた時は、
ニューヨーク市警察本部忽布捜査課の若手の有望株だったそうだ。
本人談だからどこまであてにしていいのかはわからない。

だが、相棒が私立探偵に身を窶した事になんらかの責任を感じ、
そして納得のいかないまま、辞令が下り、現在はパープルキャッツの捜査班に配属されていた。

だから今回も九里虎城(グリコサイン)特設会場に張り付くのですよ、僕は。

ウツミがブラウン管を見つめながら語る。
パープルキャッツに、どこか心を奪われている自分がいる。
忽布ばかりを盗み、その他の財宝には目もくれない。
まるで、気づいているような動きなんだ。
何かを隠しているはずの、政府に。かつての相棒、アーロンもそうだったから。

ユイの目がいつになく緊張がさしたのに気がつたいのか、
ウツミはいつものおどけた口調に戻り。

ま、左遷された僕がいっても説得力がないですけどねえ。

だけど、捕まえるのは僕の手で、そしてそのまま僕だけに教えてほしいんですよね。
忽布ばかりを盗み、その他の財宝には目もくれない、その理由を。
そうひとりごちるやいなや、昼休みが終わるらしく、
急いで会計を済まし、ウツミは『紫苑猫目』から去った。

ユイ・ユカ・ユマこそがこの都会(まち)をざわつかせている『パープルキャッツ』の正体であった。
父デイブ、母ナオコが一子相伝で密かに育て続けた天然忽布。
政府がその存在を直隠しにし続け、装飾品扱いで市場に出ないように統制している。
三姉妹は何故かが知りたい。そして父と母の形見をもう一度取り戻したい。
そのために、こんな泥棒稼業を続けているのだ。
愛する人に、ウツミには気づかれないように。
いや、こんなことを終えさせてくれるのは、ウツミしかいないようにも思う。

ユイは、ウツミのベッドルームにある鏡(ミラー)に、
口紅を取り出し、書き殴る。
都会(まち)が煌めくpurple hazeの日の夜、
Delta Parkで待っているわ from Puprle Cats.

このPurple haze、あと五分もしたら晴れてしまう。
そのときは、月明かりの下で、私を捕まえて。
パープルキャッツは、とうとうあなたの心を盗めなかった。
あなたは刑事を捨てられないし、
あたしは忽布泥棒。そんな言葉のメロディが、風に乗れば。
秘密めいた、二人の扉がどこかで開く音がする。

CLOSE

所詮、血塗られた道だ。
従えた四頭黒妖犬(ヘルハウンズ)が吐く炎は、
瞬く間にこの街を焼き尽くしていく。

焼き払え。再びこの大地を蘇らすのだ。

燃え盛る街を見下ろしながら、アヤが叫ぶ。
仮面だけでは隠しきれない移り香が、
私の心で燻る炎が、
四頭黒妖犬(ヘルハウンズ)の鼻を擽る。
あの頃の、蜜柑畑のような。
一面が金色だった、この街の蜜柑畑のような。
むせぶような香りを思い出す、鼻を擽るあの香りを。

正式名称iReen10-9(アイリーントック)エリア。
放電爆発以前の世代には、ハギノチャヤという呼び名が
有名かもしれない。
南海電磁鐵道(ナンハイ・レイルウェイ)の基幹発着場『ネオ・イマミヤ』
から南へ100キロに渡る、人口忽布工場が拡がるエリア。
政府肝入らしい。
この頃の政府は、やけに人口忽布にご執心だ。
人口忽布がもたらす富は、この街を裕福にし、
誰も工場化に疑問を挟まなかった。

かつては、この街は、広大な蜜柑畑の街だった。
この街の人々は、蜜柑貿易を営み、慎ましくも穏やかに暮らしてきた。
子どもたちは、畑を街を、走り回り、そのむせぶような香りに包まれ、
大人たちはそれを見守っていた。
そんな街で、かつてアヤも生まれ育った。
女手1つで育ててくれた母と、兄を爆発で失うまでは。

まだ生きるすべを知らない、天涯孤独であった少女に、
手を差し伸べたのは、額に三番目の眼を持つ男であった。

うだつの上がらない平民出にやっと巡ってきた幸運か、それとも破滅の罠か。
どちらに感じるのかは、お前次第だ。アヤ。

男はホフピンスキと名乗り、黙って手を握り返した少女に、自分が従えていた
四頭の犬を譲り渡した。
アヤはその日から、過去を、心を閉じ、
ホフピンスキの望むままに、生きることを決意する。

過去を捨てるのではない。
心を捨てるのではない。
燻り続ける炎を隠し続け、生きることを決意する。
過去を、心を、隠し続けるために、仮面(マスカレード)を手に取った。

仮面さえあれば、気取られること無く、隠し続けていくことができる。
自分の心も、隠し続けていくことができる。

燃え盛る街、逃げ惑う人々。誰もまだ気づいてはいない。
忽布集団(ホップヘッズ)と政府の真の意図に。
そして、ホフピンスキが、忽布集団の計画を阻止するために動き出していることに。

誰もまだ気づいていない。
この焼き払う炎が、時間稼ぎだということに。
忽布集団(ホップヘッズ)と政府をこの街に釘付けにする。
それが私の、最後の役割なのだ。
ホフピンスキが描くシナリオの、私が登場する最後の役割。
彼の描くヒロインは、わたしには与えられることが無かったのだ。

炎は工場地帯にまで届いたようだ。
人口忽布の焦げた匂いがする。柑橘の匂いがわずかにして。
昔、兄と走った、あの蜜柑畑を思い出す。

あなたは何をおびえているの。まるで迷子の栗鼠のように。

アヤが時間稼ぎをすると告げた時、エミリーはアヤにそう言い放った。
諫言、耳が痛い。
そう返しながらも、仮面の下で、ありがたいな、とそう思う。
私のことを気にかけているというのか。誰にでも等しく優しさを与えることのできる女だ。

お前はお前の道をいくがよい。それも勿布に翻弄された生き方だ。
ホウリュウジに向かって飛べ。反乱分子『半導生存者』(ソリッド・ステイト・サヴァイバー)を訪ねろ。
エミリー、ホフピンスキ。所詮、血塗られた道だ。
仮面があれば、私はその道を歩み続けられる。気づかれぬうちに、帰ってきてくれないか。
人々に、忽布集団に、政府に、そして、私自身に。

CLOSE

『母さん、ぼくのあの忽布どうしたでせうね?ええ、夏、iReen10-9(旧ハギノチャヤ地区)から
DTB:re(ドゥトンボリイ再開発地区)へいくみちで、渓谷へ落としたあの天然忽布ですよ。』

西暦2019年12月22日、ニシナリiReen10-9エリアとDTB:reを繋ぐ専用電磁高速道OTABEロードは、
豪雪により完全封鎖。
翌年に控えるオリンピックと、その5年後に開催されるWORLD Expsositonに備え、再開発が進められているDTB:re。
かつてはドゥトンボリイと呼ばれていた、ビッグ・リバーに沿った繁華街だ。
その繁華街に通ずる唯一の入国管理関門(ゲート)をもつ動線、OTABEロードの封鎖により、
豪雪の中、アクセスを遮断され、孤立の夜を迎えていた。

俺は人造忽布密売事件の売上金を横領した嫌疑をかけられ、監察官たちから査問を受けていた。
やっていないことを証明するのは悪魔の力でもないとできやしない。
査問に疲れ果て、俺は -妻と離婚し、子供の養育費を稼ぐには安月給じゃ追いつかない- 、
ニューヨーク市警察本部忽布捜査課を辞め、今はしがない私立探偵業に身をやつしている。
俺の名はアプサル・アーロン。
稼ぐためには何でもやると決めていた。
浮気調査、運び屋も、迷子の猫探しだって、相応の報酬がいただけるなら喜んで。
俺の心を震わせる依頼なら、邪魔な人間の掃除屋(スイーパー)だって請け負ってやる。
面倒なことは御免だが。この街には、俺のような男が必要らしい。

DTB:reを象徴する超高層複合施設建造物、九里虎城(グリコサイン)。
俺は新たな依頼を受け、待ち合わせに九里虎城を指定され、その現場に出くわしていたんだ。
俺にとっては、ただの偶然だった。

このエリアの象徴である建造物外壁にある陸上選手型立体光波(ホログラム)。
胸部を刺されたように見える青年が、その機上に乗り込むのが見えた。
整備でもしているのか?モラトリアム・ボーイの目立ちたがりの衝動か?
そんな想像をめぐらした、その瞬間、陸上選手型立体光波の肩先から落下してきた。
俺の目の前に。俺にとっては、ただの偶然だった。

白い雪が、彼の周囲だけ、赤く染まっていく。

大丈夫か?誰か、救急(レスキュウ)を呼んでくれ。
俺が叫ぶも周囲にいる人間は誰も気づかぬふりをするばかりで。
そもそもこの豪雪の中、アクセスを遮断され、救急隊が来ることは困難なことは、
さすがに俺でも予想ができることだった。

青年が、自らの右手に持つ爪ほどの大きさの花の実のようなもの。
それを俺に渡そうとする。
俺の名前は、デイブ・ハートランド。

こいつを、正しい使い方を。けして、やつらにわたしては、ならない。

息たえだえに、そう俺に語りかけ、右手の中にある花の実を俺に渡してきた。
彼は目を閉じ、俺の声かけに反応することはなかった。

俺はデイブのコートのポケットを漁り、ボロボロになった詩集と、
STOUTと書かれた黒麦酒の瓶を抜き取り、俺のポケットに入れ直した。
なにかヒントがあるのかもしれない。職業柄の悪い癖だ。
黒麦酒の瓶は、栓が緩かったのかすぐ開いてしまったので、仕方がないなと独り言ち、口に含む。
乾いた喉にはちょうどいい苦味と甘み。少し意識と感覚を清澄(クリア)にする。

俺は振り向かず歩き出した。50メイトル後ろ、6時方向と4時方向に一人ずつ、合計二人。
俺を尾けてきているのがわかる。
交差点(クロスロード)にある光波鏡(ホログラム・カーブミラー)
越しに二人の姿を確認し、九里虎城の角を曲がり、DTB:re未開発エリアに逃げ込むつもりでいた。

一人は青鈍く光る三只眼(サンジヤン)を持つ無毛の男。こいつはニューヨーク市警時代に覚えがある。
アレクセイ・ホフピンスキ。かつて新人ながらFATBOYSに入隊を唯一許可され、
除隊後は、夢洲(ドリーム・アイランド)での核廃棄施設占有事件の鎮圧、
作戦名FATBOYS SLIM LEAGUEをたった一人で成し遂げた男。その後消息をたったと聞いていたが。
三只眼(サンジヤン)にホフピンスキが右手を添えると同時に、放たれる光の線。
俺は僅かに身をひねり、逸れた光は地面の雪とコールタールを溶かしていた。

振り向くと黒髪の女が背中に挿してある刀を抜き、俺に向かって走り出してきた。
この薬死丸狂子(ヤクシマル・キョウコ)、今宵のあたいの妖刀は、一味違うヨ!
4時方向にいた、もうひとりの女だ。

どこかで見た気がする。FATBOYS SLIM LEAGUE作戦時、
夢洲で拉致された薬師丸博士には一人娘、響子がいたとされ、
無事ホフピンスキが救出に成功したものの、ホフピンスキが消息を断つと同時に、
彼女も消息が不明となったと記録を読んだことがある。
まさか、彼女が。この女なのか?

俺は黒麦酒の瓶を取り出し、ビルヂングの壁で底を割り、右手で握り直した。
忽布に翻弄された者達の深い哀しみと怒りが、激しく心に音を立てる。DTB:reの夜に降りしきる、冷たい雨のように…

CLOSE

『あなたの忽布をみています。あなたのファンより』
マダムムーンシャドウには、手に取るようにわかる。
千の忽布仮面を持っていると彼女自身が認めた少女アヤ。
アヤは忽布のようにもろくこわれやすい仮面を被って演技している。
どんなにみごとすばらしい演技をしているつもりでも
どうにかすればすぐにこわれて素顔がのぞく
この忽布の仮面を被り続け、女優となる。
いつも手紙と赤紫のバラを届けてくれる、わたしのはじめてのファン。
あなたがきっと観ている、それだけでがんばれそうです、赤紫のバラのひと。

CLOSE

舞洲諸島上級階層(マイシマ・アイランド・ミリオネア=マイ・ア・ミ)の象徴サ俺は『GT王(ワン)』。
まるでそれは若さによく似た真夏の蜃気楼。
ASIANなDUBなびかせ車走らせるIN THE AIR TONIGHT
特捜刑事(ヴァイス)の夜の囁き。
相棒Danny馬(マー)と諍い(バトル)は愛嬌サ。
女は海サ、好きな男の腕の中でも、
違う男の夢をみるなら、腕を刀で刻んでしまうヨ。
ユー・ビロング・トゥ・ザ・トビタシティ、
夕暮れビリー・ザ・ドッグ・イン。

CLOSE

かつて、ニシナリに自らの住いを設け、彼らの暮らしを丁寧に掬い作品を世に出した劇作家がいた。
ワカモトと名乗る彼は、ある少女と2人暮らしていた。
その少女こそがマダム・ムーン・シャドウこと、サキ・タニグチである。

彼女は若くして父と母を亡くし、孤児としてたくましくニシナリの街で生きようとしたところを、
ワカモトに拾われ、2人、暮らしていたのだ。

マダム・ムーン・シャドウが、二人の少女を競わせ続け、演じるにふさわしい一人の少女を
自身が育てんとする舞台『クリムゾンガール・イン・ザ・ヘブン』。

その戯曲は、彼女自身の半生そのものであると言われていた。
ワカモトが密かに愛し、そして誰にも触れさせぬよう大事に育て続けた少女の半生を。
彼が若き日の情熱のまま、ニシナリの暮らしとともに少女への屈折した愛情を表現した作品であったのだ。

芸能界を引退したかつての大女優、マダム・ムーン・シャドウが上映権を有したままの
『クリムゾンガール・イン・ザ・ヘブン』。

芸能界随一のプロダクション、鶴見橋芸能事務所の社長令息、サイオンジ・マスミはただ、歯ぎしりし、指を咥えて見るしかできなかった。
マダム・ムーン・シャドウの電撃記者会見を。

会見会場はニシナリに鎮座するリバーサイドホテル南海(ナンハイ)の最上階、瓢箪の間にて行われるとのことだった。
ついに主演とする女優を決めたのではとの噂がもちきりのなか、放電爆発後初となる、『クリムゾンガール・イン・ザ・ヘブン』の再演の発表であろうと、多くの芸能関係者と取材陣が集まった。
多くのマイクが並べられた白い布をまとった机が一つ。会場はただそれだけだった。

会見開始時刻になるとブザーが鳴り、会場のライトが全て消えた。
ようこそ、マダム・ムーン・シャドウの舞台へ。
暗闇の中、彼女の声が響き、そしてこだまする。
ざわめく会場の空気を更に切り裂くように、彼女の声は続く。

初代クリムゾンガールを演じました、マダム・ムーン・シャドウこと、サキ・タニグチです。
私の声に集中していただけるなら、灯りはまだ必要ないかもしれませんね。
電子合成音が続く。
カ・・ツ・・モ・・ク・・セ・・ヨ・・。
あなた達は、電気山羊(Electilic Goat)の夢をみることはありますか?
合成音の終わりは、またも初代クリムゾンガールの声であった。
彼女の声だけが続く。
クリムゾンガールは、私が初代で、そして永遠とする。
この場所で、たった今から。

灯りが一斉に灯される。眩さに目がなれたころ、皆の目の前にいたのは、
若き少女の頃の、マダム・ムーン・シャドウ、その人だったのだ。
この国の政府、そして芸能界、そして我が物顔の忽布集団。
すべてが悪意と忽布に汚染されています。
今、私は宣言します。彼らへの戦いをこの場で挑み、蠢く汚染と野望から、この土地ニシナリを取り戻すことを。
殺戮機械兵(キリングマシーン)『劇団月影(Moon Shadow’s)』の結成です。

響き渡るタニグチの声を、遮るものはなにもなかった。
タニグチの、一世一代の舞台に、はからずも皆が心を奪われてしまったのだ。
忽布と自由を取り戻す戦いが、今、高らかに幕を上げた。

CLOSE

この時間になると、いつも僕の横の席にエミリーさんは座っていた。
雨降りの朝、今日は会えない日だ。
ちょっとほっとして、僕はジンジャーエールを飲み干す。

もう、気が抜けていて。
いつも、エミリーさんは僕の横の席で酔っていた。
明け方に思いついたように、あんたみたいな私と似たようなやつが集まるものね。
でもね、こんな出会いを、一生の何分の一なのかなんて、よくできた腕時計なんかで計るもんじゃないわ。
そう言って、エミリーさんは、《歩日ARCA(アルカ・アルカ)》を出ていった。

それから、エミリーさんには会ってない。

同じ夜明けを見つめていた、二人だったような気はしてるんだけど、同じ言葉に傷ついてもいて。
変わらない君だけがいつも、そこにいてくれたらいいのに。
エミリーさんに言われた言葉が、僕に呪いをかける。
だから、今は、ちょっとほっとしている。
僕はジンジャーエールを飲み干す。
もう、気が抜けていて。

ドゥルスタンタンスパンパン
ビートマシンのような電磁ピストの起動音が遠くで聞こえる。
エミリーさんのマシンだ。
僕らの世界はどこだってライブステージで。
彼女の起動音で、僕はビートマシンだ。

あの日の仲間たちはみんな、おとなになって散り散りさ。
いつか、僕はきっと長い手紙を、エミリーさんに書くだろう。

僕も《歩日ARCA(アルカ・アルカ)》をあとにする。
ついこないだ、エミリーさんが向かった2‐10郭(ツーテンカク・タワー)は、マグネシウムの塔のように燃えはじめて、足下の『シン・世界』は、溶けたマグネシウムがまばゆい光を放っていた。
アルミニウムのように、エミリーさんの夢が溶けてゆく。

僕はジンジャーエールを飲み干す。
口ずさむのは1.2.3でバックビート。
僕はビートマシンだ。

どこまでも、ゆける、
どこまでも、ゆける。

CLOSE

7年前の海上要塞人工島群、Fatboyzと次世代型特殊私兵軍隊による、
舞洲(マイシマ)諸島武装蜂起事件。
事件後、世界は4つに分割された。
AREA2470(ニシナリ)を中心とした四大大陸を
圧倒的資金力で牛耳ている贅四衛府(ゼイシイエフ)。

人造忽布冷戦時代の幕開けである。

”トビタsin/city(TOBITAシン地)上空、3万フィート”
無線越しに現状報告を行う操縦士。
許可を求めるかのように、言葉を続ける。

間もなく、AREA2470(ニシナリ)領空に近づきます。
降下20分前、機内減圧開始。

貨物室で一人待機をしている『エリヨ・波寝』が無線に返答する。
自動開傘装置の解除装置を外せ。
いいぞ、視界は良好だ。

武装蜂起事件後、解体されたものの、
度重なる忽布テロルに業を煮やした贅四衛府(ゼイシイエフ)の肝いりで
再構築された新生Fatboyz。
彼女は、その新生Fatboyzの新人にして、この作戦の指揮を任されていた。
初の任務にも関わらずだ。
贅四衛府(ゼイシイエフ)の期待なのか、全権委任という名の無視(ネグレクト)なのか。
エリヨも彼らからの扱われ方に、早くも慣れてしまっていた。

降下1分前、電磁二輪駆動機(ロードバイク)の起動を。

無線が告げる。機内とのお別れと景気づけに、ポケットに忍ばせていたビールを口に含む。
エリヨの祖母、キヌ波寝が持たせてくれた黒糖と一緒にだ。
ずっとそれでうまくやってきた。

時速130マイルで落下する。風速冷却での凍傷に注意しろ。
エリヨは表情を変えずに頷く。

雲を切り裂くように、起動したての電磁二輪駆動機で、
エリヨはただ、自らを貨物機から落下させた。

かつて贅四衛府(ゼイシイエフ)の解体を目論みテロルを実行した囚人番号T-2014、キョウスケ。
服役中であった彼が、昨日未明に脱走したことが判明。
トビタsin/city(TOBITAシン地)に潜伏しているとの情報を得た
Fatboyzは、貨物機からの空中降下によるAREA2470への潜入を選択した。

冷却された風が冷たい。
無線から感情を押さえた声がする。

エリヨ。無事着いたようだな。いいか、君の任務は
AREA2470(ニシナリ)の料亭街(レストラント・タウン)、
トビタsin/city(TOBITAシン地)に単独潜入。
T-2014、キョウスケの安全を確保、贅四衛府(ゼイシイエフ)へ奪還する事だ。
例の新型電磁二輪駆動機が完成する前に、T-2014を奪還しなければ大変なことになる。
残された時間は、わずかだ。
回収地点への合流まで4時間だ。

スムーズな任務なんでしょ?大佐。
夕食までには間に合いそうね。

エリヨは無線の主にそう返す。

周波数が振れる音。
誰かがFatboyzの無線帯に介入(ジャック)している。

”君がエリヨか。エリヨ・波寝、いい名前だ。夕食に間に合えばいいが、
俺を捕まえるのに足踏みしてたら、モーニングコーヒーを、
ご一緒したいものだね。この街で、ククク”

あなた、T-2014、キョウスケね。名前を褒めてもらったのは今日で3回目だわ。
ありがとうとは言っておく。
エリヨは口角だけをわずかに上げ、大佐には聞こえないように周波数を限定(ロック)した。

”俺は逃げも隠れもしない。確保するならすればいい。回収するならすればいい。
だが、お前さんの上司(ボス)の目的が、俺と贅四衛府(ゼイシイエフ)との間の『雪解け』なら”

雪解け・・なら?
エリヨは聞き返す。

”雪解けするなら、俺の部下とお前さんが競技(レース)をするといい。新型の電磁二輪駆動機を用意しておく。
お前さんの好きな、ビール一本を賭ける価値はあるゼ”

奇妙な提案を彼から受けたエリヨは、彼の指定する
トビタsin/cityの料亭(レストラント)、
『猪口冷凍餌洲娘』へ、向かうことにした。
まだ、4時間は楽しめそうだから。

CLOSE

A long time ago in a Nishinary far, far away・・・
凶悪な贅四衛府(ゼイシイエフ)帝国の支配が続く中、エスタ・亜頼耶(アラヤ)姫率いる反乱軍は、帝国に対し初めて勝利を収めた。反乱軍の諜報部隊は帝国軍が建造を進める究極兵器の設計図を奪取する。それは「デブ・スター」と呼ばれる麦芽をも粉々にする能力を持つ麦酒要塞基地だった。帝国軍に追われながらエスタ姫は設計図を手にニシナリへと急いだ。銀河に忽布を取り戻すために・・・May the“HOP”be with you.

CLOSE

私の恋をまんまと奪った泥棒は、掴んだ手を離してはくれなくて、こっちも振り返らずに、

どこに行こうか?

じゃあ、海がいい。
マナミは少し、なにか企んでいる顔で答える。

非常警報のベルはどこかしこでけたたましく鳴り響いているのだけど、
マナミにはどこか遠くで鳴っている、そんな気持ちだった。
少し潤んだ目には、南港(サザンポート)地区の灯台の灯りも、遠くに見える街(ニシナリ)の灯も、
ただ、滲んで見えた。

街(ニシナリ)はいたるところで小規模の爆発が起こっていて、
小さく聞こえる悲鳴、怒号。
不謹慎だけど、その不規則な爆発は、まるで花火のように綺麗に思ってしまう。
ダメなんだけど、掴んだ手を離すつもりはなかった。
マナミも、きっと、泥棒も。

最後の花火が消えた瞬間。

南港(サザンポート)地区は二人だけだからって、もう大丈夫だからって彼は嘯いて、波打ち際に走りだす。

掴んだ手をふいに引き寄せて、マナミの肩にちょこんと頭を載せて、泥棒は囁く。
僕らは今、まるで、はしゃぎすぎてる
チルドレン・オブ・サマーだよ。

サマー・オブ・ラヴ

真夏の夜は、時とともにマナミの服を溶かしちゃったみたいで。
胸と胸が
指と指が
からまりながら。

でも、マナミは思い出してしまう。
通り過ぎてしまうまで、何も考えたくないな。

そうマナミはつぶやいて、小麦色の素肌を顕にしたまま
誰かが忘れていった ー砂浜のような小麦で作ったビール、
って昔店長が言ってたよなー
ボトルを手に取り、胸に惜しみなくかけて
ねえ、今キスすると、きっとビールの味がするよ。

いつかの誰かの感触をマナミは思い出しながら
そのすべてが通り過ぎるまで、そんなことを、彼に話しかけてしまうのだった。

CLOSE